新学名の試験的登録始まる!
永益英敏(京都大学総合博物館)
第15回国際植物学会議(1993)が横浜で開催されたのは,ついこの間のことだったような気がするが,アメリカ合衆国セントルイスで開催される第16回会議はもう来年になってしまった。
さて,第15回会議ではいくつか大きな変更が植物命名規約に加えられたが,正式発表の要件として,2000年1月1日以後は新学名の登録が義務づけられることになったのもその一つである。もっとも第16回会議で承認されればという条件付きではあるが(東京規約,第32条1項および2項)。
第15回会議に提案された条項では実は1995年1月1日から登録を義務づけようとするものであったが,具体的な登録の方法が確立されていないという理由で,5年間の延長が決まったのである。横浜での会議の具体的内容についてはその議事録が掲載されているEnglera 14 (1994: 138-151, Art. 32 Prop. B-C)に詳しいので,興味のある方は参照なさるとよい。新学名が登録されるべきである,ということについて反対する意見は聞かれなかった。やはり見落としのない新学名のリストは誰だって必要だと思っているし,そのためには登録を義務づけるしかないのである。問題になったのは主に,登録するのは誰なのか,そしてどのような方法で登録するのか,ある学名が登録されているかどうかをどのようにして知ることができるのか,学名の出発点としての日付は有効出版の日なのか登録の日なのか,登録の日ならば遠方の研究者は不利ではないか,といった事柄である。そのような具体的な事柄がはっきりしないうちは安易に賛成できない,という雰囲気だったのである。そこで第16回会議で承認されることを条件に,という一文を加える動議が提出され採択されたという経緯がある。
その具体的方法についての提案が,Taxon 46(4): 811-814 (1997)になされている。Taxonが手許に届く前に,著者の一人であるGreuter氏から私に直接電子メールがあり,Taxonに掲載されているものと同じ文章が添付されていた。この文章をJSPT News letterに掲載し,日本の植物研究者に広く知らせてほしいという依頼である。私が1995-1996年,ニュースレターの編集を担当していたせいで,私のところへ依頼されたものと思う。ちょうど11月号が出版された直後であったし,また原文は読みづらいのでそのまま掲載したのでは読んでもらえない虞があると思ったので,次の2月号に翻訳して掲載する旨,返事をした。そういうわけで本文のあとにその翻訳を掲げる。誤訳があるかもしれないので,わかりにくいところや重要なところについては必要に応じて原文を参照していただきたい。原文はTaxonだけでなく,IAPT(国際植物分類学連合)のWWWサーバであるhttp://www.bgbm.fu-berlin.de/iapt/registration/でも入手することができる。 ちなみに命名規約自体もこのサーバ上(http://www.bgbm.fu-berlin.de/iapt/nomenclature/)で見ることができる。
読んでいただければわかるように,横浜で問題になったことについてはそれなりに解決されていると思う。問題はうまく機能するかどうかであり,それを確認するため,今年1月1日から2年間の試行期間が始まっている。新学名を発表する方はぜひこの試みに参加して,都合の悪いところがないか,ためしてみてほしいと思う。もし気に入らない点があれば,登録が義務づけられる2000年1月1日に先立つ第16回会議で修正することも可能であろう。問題の深刻さによっては登録の開始について再度の延長が行われる可能性もある。
信任雑誌に関しては,これまで新学名を出版してきた専門誌について,すでに個別に協力依頼が来ているようである。IAPTのサーバにはすでに協力の申し出をした信任雑誌のリストが挙がっている
世界的な意味で不公平にならないように,という観点で設定されることになった国内登録局(national registration office)だが,実現は意外と難しいかもしれない。文献を集めることができるというメリットはあるにしても,当事者にとってはいわば雑用が増えるわけで,よろこんで引き受けてくれるようなところが果たしてあるのだろうか? いやになったからといって,放り出すわけにはいかないのである。また,財政的な問題はどうするのだろうか? 試行期間とはいえ,どこかが引き受けてくれないことにはそのような問題点もあぶり出すことはできないだろう。早急に,たとえば自然史学会連合のような場で議論することが必要かもしれない。つくづくnational herbariumの実現が望まれるところである。これを機会に国内に分類学文献を完備したnational herbariumの設置されるよう,はたらきかけができないものだろうかとも思う。
新学名の登録に関する試験期間のおしらせ(1998-1999)
Announcing a test and trial phase for the registration of new plant names(1998-1999)L. Borgen, W. Greuter, D.L. Hawksworth, D.H. Nicolson & B. Zimmer, IAPT Officers
Contact address: IAPT Secretariat, Botanischer Garten und Botanisches Museum Berlin-Dahlem, Freie Universitaet, Koenigin-Luise-Str. 6-8, D-14191 Berlin, Germany
Taxon 46(4): 811-814 (1997)はじめに
すでに国際植物命名規約に含まれている規則(東京規約第32条1−2項)だが第16回国際植物学会議(セントルイス,1999年)でも承認されれば,西暦2000年1月1日以降は植物および菌類の新学名は正式発表の要件として登録されなければならない。登録方法が実際に機能することを実証するため,国際植物分類学連合(IAPT)は,任意のものとして,1998年1月1日から2年間,試験的に登録を行う。調整センターはIAPT事務局,現在はベルリン−ダーレム植物園 Botanic Garden and Botanical Museum Berlin-Dahlem, Germany,の予定である。大きな分類群についての現在の目録作成センターとの調整も,実施段階においてそれらの機関が登録センターとして活動することを考慮して,検討されている。連合王国イーガム(Egham, U.K.)の国際菌類学研究所はすでに化石を含む菌類全体の関連登録センターとして活動することを了承済みである。登録手続
調整登録センター(IAPT事務局)およびその監督のもとに活動する関連センターは,次のいずれかの方法で注意を喚起された,すべての新分類群の学名,すべての新組替えまたはランクの移動,を登録し使用できるようにする。
− 信任された雑誌または定期刊行物に出版されたとき
− 直接または国内登録センターを通して,(通常は著者または著者のうちの一人によって)登録のために提出されたとき
− 登録センターの職員によって出版物のなかに見出されたとき(試験期間中に限る)信任された雑誌または定期刊行物による登録
ある雑誌または定期刊行物が信任されるためには,発行人はIAPTとの契約に署名することにより次のことを誓約しなくてはならない。
− 雑誌または定期刊行物の各発行物中のすべての命名法上の新件を,別の索引を作成する,あるいはあらかじめ合意した別の適当な方法によって,指摘すること
− 各発行物を出版後ただちにもっとも迅速な方法であらかじめ定められた登録局またはセンターに提出すること
信任された雑誌および定期刊行物はその表紙,題扉あるいは奥付中に信任出版物であることを記述する資格があり,また奨励される.
信任された雑誌および定期刊行物のリストは永久的に更新され,World Wide Web (http://www.bgbm.fu-berlin.de/iapt/registration/ をみよ)上におかれる予定である。このリストは毎年Taxon誌上に発表される。登録局への提出による登録
信任された雑誌または定期刊行物に発表されない(たとえばモノグラフ,小冊子,または信任されていない定期刊行物など)植物命名法上の新件の著者は,次の様な方法で,それらの学名を登録のために提出することが強く奨励されるし,いったん登録が必須のものとなった場合には必要とされる。
− すべての登録されるべき学名は,それぞれの出版物について別の用紙を用いて,適当な登録用紙にリストされなければならない
− 登録用紙(3部)はその出版物2部を添えて国内登録局(以下を見よ)または直接,適当な登録センターに提出されなければならない。書物または信任されていない定期刊行物からの抜き刷りは,もとの出版物が正確に省略されずに示されていれば受理される
− 日付をうった用紙1部は,登録済みである証として提出した著者に送り返される
登録用紙は,(a)手紙,ファクス,または電子メールでいずれかの登録局またはセンターに要求すれば,また(b)願わくは,World Wide Web(上述)上におかれている書式をプリントしコピーすることによって,無料で手に入れることができる。
登録局はできるだけ多くの異なった国におかれるよう現在準備中である。これらは(a)郵便箱および登録提出の取次機関として,また(b)新学名が出版された地域印刷物の国内保管所として機能する。
すべての機能している国内登録局の所在地リストは永久的に更新され,World Wide Web (上述)上に置かれる予定である。このリストは毎年Taxon誌上に発表される。登録の日付
ここで定義される登録の日付とは,国内登録局または適当な登録センターに提出された登録手続が受理された日付である。信任された雑誌または定期刊行物については(また,試験期間中においては登録センターで調査された印刷物については),登録センター(もしそのように合意されているならば国内登録局)の所在地において,その印刷物が受理された日付である。
試験期間中,すなわち登録が必須でない間は,登録の日付に関りなく,ある学名の日付は以前のように,それが正式に発表された印刷物が有効に出版された日付である。しかしながら登録の日付は次のような理由から記録される:
− 有効出版の日付が印刷物中に明示されていない場合,その学名がその日付以前に出版されたことを明らかにするため
− 登録の日付が西暦2000年1月1日以降に発表された学名の日付として受け入れられることを鑑み,印刷物の(有効に出版された,あるいはそのように述べられている)日付と,登録の日付との違いを調査するため
それゆえ,命名法上の新件をもっとも迅速な手段によって遅滞なく登録のために提出することはすべての著者のためになることである。登録されたデータへのアクセス
登録された学名に関する情報は,(a)それらを遅滞なく検索可能なデータベースとしてWorld Wide Web (http://www.bgbm.fu-berlin.de/iapt/registration/regdata.htm)上に置くことによって,(b)年2回,非累積的なリストとして出版することによって,また(c)望ましくは更新された累積データをCD-ROMタイプの完全に検索可能なデータ媒体で,同様な間隔で発行することによって,可能なかぎり速やかに万人に利用できるものにする。各人への呼びかけ:システムが機能するように試してみていただきたい
この試みを有効で有意義なものにするためには,1998年1月1日以降に命名法上の新件を出版するすべての人が自発的にすべての新学名および組替えを登録することによって参加することが大切である。(a)自身がそうすることによって,そして(b)このメッセージをほかの人にも伝えることによって手伝っていただきたい。
始めの数カ月の間に欠点や誤りがあったとしてもやめたりしないでほしい。これは試験段階であることを忘れてはならない。システムにバグやしわがあったら知らせてほしい,アイロンをかけてしまおう。大事なのは1999年の終わりまでにすべてがスムーズにいくこと,そして次の会議までにそうなるよう全員が確認することである。
新学名の登録は,もし機能的な方法で達成されてしまえば,コストの面でたいした不都合もなくすべての関係者にとってかなりの利益になると信じているし,1993年の横浜での命名法部会でもそういう感触だった。命名規約は次の千年紀へむけてよいスタートを切るために調整されなければならない。そうなるよう一緒にがんばりましょう。前向きな一歩としての登録
Registration as a positive stepK.L. Wilson
Royal Botanic Gardens, Mrs Macquaries Road, Sydney, N.S.W. 2000, Australia
Taxon 46(4): 811 (1997)命名法上の新件を登録することは,私には,21世紀へ向けて赴くべき自然な道であるように思われる。これによって私たちはどんな新しい学名が出版されたかすぐに知ることができるようになるし,地球上で毎年出版される植物学文献の紙の山に隠された新しい学名を見過ごすこともなくなるだろう。このことは新しい学名を隠すことで悪名高い1回きりの出版物(フロラやフィールドガイドのようなもの)にとってとりわけ重要である。
登録が検閲を意味すると考える人々もいるが,これは間違いである。すべての学名はその状態についてのコメントもなく,そして登録センターの一つで受理されるとすぐに,現在のIndex Kewensisのようにリストされるようになるだろう。登録を有効なものにするためのメカニズムを問題にする人々に対する私のただ一つの警告は,地球全体にかたよりなく設置された登録センターまたは登録局のネットワークを保証することである。すべての地域で郵便業務が明らかに悪くなっている状態があるので,このことは登録のために新学名を提出することを容易にするために必要である。