国立公園における採集許可の申請方法

 副島 顕子(大阪府立大学総合科学部)

 植物分類学会に所属している人で植物採集をしたことがない人はまずいないと思うが,採集許可を自力で取得したことのある人というのはどれぐらいいるのだろうか.私自身,人がとってくれた採集許可に便乗して採集を行ったことはあっても,自分で直接採集許可を申請したことがない.山野草の乱獲が絶滅危惧種の減少に大きく関わっていると聞いて腹を立て,そのような採集に規制が必要だ,などと思う割にはいい加減な話である.そんな反省の意味もあって,採集の許可申請について調べてみた.

 

 植物採集に関して,直接関わってくる法律は「自然環境保全法」「自然公園法」「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(以下「種の保存法」と略)」「文化財保護法」の4つ.文化財保護法は文化庁,その他の3つは環境庁の管轄である.「文化財保護法」については,別記事に詳しい説明を頂いたので,ここでは取り上げない.

 「自然環境保全法」ではこの法で定められた保全地域における採集を規制する.国立・国定公園などより知名度が低いような気がするが,原生自然環境保全地域(遠音別岳,十勝川源流部,大井川源流部,屋久島,南硫黄島)と自然環境保全地域(釧路湿原,太平山,白神山地,早池峰,和賀岳,大佐飛山,利根川源流,笹ヶ峰,白髪山,稲尾岳,西表島崎山湾)が指定され,前者ではすべての動植物の採集に環境庁長官の許可が必要である.後者はさらにいくつかの地区に分けられており,そのうち,特別地区では木竹の伐採に,野生動植物保護地区では野生植物の採取に環境庁長官の許可が必要である.

 「自然公園法」は国立公園・国定公園の特定の地域における採集を規制する.これに関してはその許可申請の方法を後に具体的に述べる.

 「種の保存法」では希少野生動植物種と指定された種について,採取,損傷を原則禁止.学術研究,繁殖等の目的の捕獲等に関しては,環境庁長官の許可を受ければ可能である.ただし,指定されている種類は少なく,植物ではレブンアツモリソウ,ハナシノブ,キタダケソウの3種類のみが指定されている.

 

国立公園内における採集許可申請

1.許可申請が必要な場合

 国立公園及び国定公園内での採集に関しては,自然公園法で規制されている.これらの自然公園は保護計画にもとづいて普通地域,特別地域,特別保護地区に分けられており,普通地域においては採集許可申請の必要はない.特別地域,特別保護地区においては,表1に示す行為を行うにあたって事前に許可申請をして許可を得ることが必要である.地区指定及び環境庁長官指定植物リストについては関連窓口に問い合わせること.国定公園における採取許可申請は国立公園と同様である.

2.許可申請に必要なもの

 許可申請書(自然公園法施行規則第10条及び11条に規定) (図1)

 記載事項:1)申請者の住所及び氏名(法人にあっては,主たる事務所の所在地,及び名称並びに代表者の氏名),2)行為の種類,3)行為の目的,4)行為の場所,5)行為地及びその付近の状況,6)行為の施行方法,7)着手及び完了の予定日.

 添付図面:1)行為の場所を明らかにした縮尺五万分の一以上の地形図,2)行為の施行方法の表示に必要な図面.

3.許可申請の窓口

 申請書は許可の権限が都道府県知事か環境庁長官かに関係なく,いずれも都道府県の定めた窓口に提出することになっている.この窓口は各都道府県によって異なるので採集を予定している場所の位置する都道府県の自然保護関係課に問い合わせること.各地区の国立公園・野生生物事務所(表2)に問い合わせてもよい.

 申請方法は基本的には全国共通であるが,審査基準などが個別に決められている場合もあるので,事前に窓口に相談するのが手間を省くためには是非とも必要である.

4.許可のための審査

 上記にしたがってなされた申請について審査が行われる.採取を行おうとする場所の区分や行為の種類によって基準は異なり,許可の基準として下記のような「審査指針」が定められている.申請から許可がおりるまで,約2カ月必要である.
 1)木竹を伐採すること

特別保護区:許可しない.ただし,学術研究その他公益上必要と認められるもの,地域住民の日常生活の維持のために必要と認められるもの,病害虫の防除・防災・風致維持その他森林の管 理として行われるもの,又は測量のために行われるものはこの限りでない.

特別地域:特別地域はさらに第1種から第3種に分けられており,それぞれについて異なる基準が設けられている.但し書きについては特別保護区と同様.

 2)高山植物等の採取,木竹の損傷,木竹以外の植物の採取又は損傷

 学術研究その他公益上必要と認められるものであって,当該特別保護地区以外の地域においてはその目的を達成することができないと認められるものであること.

 対象物が当該特別保護区において絶滅のおそれがないものであること.ただし,当該種の保護増殖を目的とするものであって,当該特別保護地区における当該種の保存にくみするものについ てはこの限りではない.

 このような「お役所関係」の手続は,型通りにやらないと何度もやり直しさせられたりしてむやみと時間とストレスがかかることが多い.そんな手間を嫌うため,または手続方法を知らないがために必要な申請をせずに採集を行うことはなかっただろうか.かつて,大学教授による高山植物の盗掘が新聞ネタになり,話題を呼んだことがある.さる解説によると研究者による盗掘の特徴は「罪悪感が無いこと」だそうである.研究のための採集なのだから採集の行為自体に罪悪感がないのはともかく,規則に違反するのは犯罪行為であるということに対しての認識の低さは非難されても仕方ないであろう.確かに手続きには時間も手間もかかるが,このような規則があることで守られるものがあることもまた事実である.これからの保護も保全も,適切な法規制とその運用にかかるところが大きいと思われる.規則についての正しい知識を持ち,必要な場合にはしかるべき手続きをとる手本を示すこともまた保護,保全への貢献のひとつではないだろうか.