2001年度日本植物分類学会講演会の記録

頌栄短期大学 福岡誠行


学会統合を受けて、植物分類地理学会でおこなっていた講演会を関西地区講演会として継続することになった。岡本素治さんに相談し大阪市立自然史博物館で、2002年1月20日(日)に開催した。参加者は70人ほどであった。博物館での開催だったので子どもの闖入もあり、ご愛嬌であった。

定刻の10時半に、東京から馳せ参じられた加藤会長の挨拶をいただき、私の進行役で講演会をはじめた。講演会は次の5つの演題でおこなわれました。なお懇親会は大衆的中華料理店(岡本素治氏談)で5時半の予定が5時10分頃に繰り上がって、早々にビールの栓が抜かれ、8時に終了した。

 

岡本素治, 岡田博, 塚谷祐一:ヤブガラシの2倍体と3倍体について

野外観察でヤブガラシに実をつける株と実をつけない株があることに気がついた。前者は2倍体(2n=40)で後者は3倍体(2n=60のはずが59)であった。2倍体と3倍体では花粉の稔性や孔辺細胞にも違いがある。ヤブガラシは北海道西南部から琉球などに広く分布するが、2倍体の株は関東以西に限られているようである。種子をつくらない3倍体の方がより広く分布しているのはなぜか?

3倍体のヒガンバナは救荒植物の一つとみなされ、そのために栽培され分布を広げたとする巷説がある。3倍体のヤブガラシが救荒植物であったなら、ヒガンバナのように分布を広げるきっかけになるかもしれない。岡本さんはヤブガラシ救荒植物説を立証しようとしたかったようである。牛蒡のようなヤブガラシの根を食べたが、あく抜きがうまくいかなかったという。このことは彼の蔓目躍如とするところであるが、ヤブガラシの3倍体だけが救荒植物になったとは考えにくい。建部清庵著「備荒草木図」にはヒガンバナはノミネイトされていないので、ヒガンバナ救荒植物説は怪しいと思っているが、いかがなものか。

 

美和秀胤:ジャゴケ類の分類

ジャゴケ属は多年生で無性芽ができないジャゴケと、1年生で無性芽ができるヒメジャゴケがある。日本のヒメジャゴケはDNA解析によると2型あり、北海道の黒松内低地より北にNタイプが、南にSタイプが分布している。これら2型の間で遺伝的交流は認められない。中国にはSタイプと雲南タイプがあることがわかった。形態的には違いが認められないが、DNAの塩基配列からは種分化がおこっている。北川尚史氏がマクロのレベルで問題を明らかにされていたので、ヒメジャゴケを研究材料に選んだそうである。

 

村上哲明:シダ植物の理想の分類をめざして −海外の野外研究と実験室の仕事(DNA解析, 染色体, 交配実験など)を組み合わせて、いかにして表題の問題に近づくか?

理想の分類とは生物の類縁と実態を反映したものである。高次の分類(属以上)では系統分類であり、かっては困難とされていたが、今はDNAで容易に解析できる。種分類では生物学的実体を反映したものである。種は生殖的に隔離され、遺伝子型が統合されていて、独自のニッチをもつもので、種ごとに形態が異なる必然性はない。理想の種分類をおこなうには、遺伝的、細胞学的に解析し、野外調査により生態の特性を解析し、さらに生物学的実態のある種を記載することである。(ホウビシダは省略)シマオオタニワタリは形態的には違いがないが、DNAの塩基配列には大きな違いがある。この違いは被子植物では科の違いに相当する。ジャワで調べたがAタイプは木の低いところに着生し、Bタイプは高いところについている。AとBを人工的に交配しても雑種はできなかった。AとBは生殖的に隔離されている。また山の標高の高いところにはCタイプがある。

懇親会の席での村上氏談:ボゴール植物園ではシマオオタニワタリを亜種で分類するようにと頼まれている。種で分けられると、形態的に違いがないA、BとCを腹の種カバーに分けないといけなくなる。亜種で分類されるなら、種カバーを分ける必要がないからである。

やはり懇親会の席でのひそひそ話:DNA分類学会を分離させてはどうか。今なら多数決で勝つかも知れない。しかし熟年組は近い将来間違いなく少数派になるから、この分離案は総会に提案しないことになった。

 

北川尚史:植物用語の歴史

北川さんは定年退職した(再就職されている)。書斎に集まった本をみていると、植物の歴史についての本がけっこう集まっている。これらの本をみていると早く使え使えといわれているようで、なんとなく圧迫感がある。この際、これらの本を使って植物の用語の歴史について調べた。宇田川榕庵の「菩多尼訶経」などの貴重な文献をみせてもらいながら、どんどん時間が帳り過ぎていった。講演の一部が「分類」1巻63−70頁に「心皮という用語の由来」の表題で掲載されているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

 

高野温子, 三橋弘宗, 鈴木武, 永吉照人:GISを用いた自然環境情報の活用方法

高野さんの講演はハイテク機器を駆使して話された。これらの機器が使えればいろいろ情報発信ができ蔓白そうであるが、思うように動いてくれないのがハイテク機器である。詳しくは布施さんが書いてくれるので、省略する。