2019年度日本植物分類学会講演会のお知らせ 講演会担当委員 布施 静香 2019 年度の日本植物分類学会講演会は,大阪学院大学の林一彦先生に会場をお世話いただき,次のとおり開催いたします。 演題など詳細につきましては次号のニュースレターでご案内いたします。 !!日時 2019年12月14日(土)午前10時〜午後5時05分 !!講演会場 大阪学院大学 2号館地下1階2号教室(02-B1-02 教室) 〒564-8511 大阪府吹田市岸辺南2丁目36番1号(電話:06-6381-8434) !!講演スケジュール 10:00–10:05 ご挨拶 10:05–10:55 稗田 真也(滋賀県立大学) 10:55–11:45 本庄 三恵(京都大学) (11:45–13:00 昼食) 13:00–14:00 池田 啓(岡山大学) 14:00–14:50 藤川 和美(高知県立牧野植物園) (14:50-15:00 休憩) 15:00–16:00 能城 修一(明治大学) 16:00–17:00 高宮 正之(熊本大学) 17:00–17:05 ご挨拶 林 一彦 !!参加費 無料。ただし、お茶代として1人100 円のご協力をお願いいたします。 !!事前申込み 不要です。直接会場までお越しください。 !!その他 講演会終了後,大阪学院大学職員食堂(17号1階)で懇親会を行います。懇親会の参加費は 4,000 円(院生・学部学生には割引あり)です。お時間の許す方は、どうぞこちらもにご参加ください。 !!講演内容(執筆は各演者による) 〇稗田 真也(滋賀県立大学環境科学研究科) 「琵琶湖における特定外来生物オオバナミズキンバイの分類・生活史・管理について」   特定外来生物オオバナミズキンバイは米大陸原産の抽水植物で亜種オオバナミズキンバイ(6倍体)と亜種ウスゲオオバナミズキンバイ(10倍体)がある。形態と染色体から琵琶湖集団は亜種ウスゲであることを明らかにした。形態可塑性があり水中から陸上まで繁茂し茎断片や葉で分散、再生する。フランス集団は自家不和合性とされるが、琵琶湖集団には自家和合性があり、セイヨウミツバチなどが送粉する。種子は泥中保存後に高い発芽率を示す。水鳥の糞中に発芽可能な種子が含まれることがわかったため分布水系から離れていても注意が必要である。英国では侵入初期に対応し複数地点で根絶した。早期防除のために管理者責任を確立する必要がある。 〇本庄 三恵(京都大学生態学研究センター) 「遺伝子の働きから見た植物の季節性」   植物は季節を通して経験する温度ストレスや病食害に対し、様々な遺伝子を働かせて対応していると考えられる。しかし、自然生育地での遺伝子の働きについてその実態はほとんどわかっていない。最近、少量の葉から全ての遺伝子の発現を測定するRNAシーケンシング法を用いることで、自然環境下に生育する植物の季節性を研究することが可能となった。この手法を用いてアブラナ科の多年生草本ハクサンハタザオの遺伝子の働きを毎週測定し明らかにした。発表では、食害・病害防御に関わる遺伝子の季節性について紹介する。さらに、ハクサンハタザオとカブモザイクウイルスとの関係に着目し、植物が防御機構を季節によって変えながら長期に生育している様を紹介する。 〇池田 啓(岡山大学資源植物科学研究所) 「DNA解析から改めて考える日本列島の高山植物相の成り立ち」   日本列島の中部地方をはじめとする標高の高い山岳には,低地では見ることのできない高山植物が見られる.これらの植物は,過去(第四紀)の氷河時代に日本列島よりも北に位置する寒冷な地域から南下した起源をもつと考えられている.しかし,最近のDNA解析では,北方系の高山植物と思われているものであっても,日本列島から北方に分布を広げた歴史をもつ可能性のあることが示されてきた.本講演では,これまでのDNA解析の研究成果を振り返り,日本列島の高山植物相の成り立ちについて分かってきたことを解説する. 〇藤川 和美(高知県立牧野植物園)  「ヒマラヤから横断山脈、そしてミャンマーへ。植物標本を採集する」   生物種の実態を把握するためには、生きた植物を観察して調べ、記録となる標本の収集が欠かせない。これまで、海外学術調査隊に参加する機会をいただき、研究対象とする分類群を求めてヒマラヤ地域でフィールドワークを行ってきた。また、所属機関では、植物標本が十分に蓄積されていないミャンマーで、現地の共同研究者とともに植物多様性の解明を目指し標本採集を進めている。これら海外のフィールドワークを通じて得た地域植物相の特徴と現地調査の勘所を紹介する。 〇能城 修一(明治大学)  「先史時代の西日本におけるイチイガシの重要性」   ブナ科コナラ属のイチイガシの植物遺体は西日本の縄文時代から古墳時代の遺跡からは普通に出土する。その果実は,九州を中心として,約8000年前にはじまる縄文時代早期後葉以降,貯蔵穴の中から多量に見つかっており,そうしたイチイガシ果実の貯蔵は,稲作が導入された弥生時代においても北部九州を中心として検出されている。一方,イチイガシの木材は,近年の研究から,弥生時代から古墳時代の鍬や鋤の歯として,九州から関東地方南部において,もっぱら選択されていたことが明らかとなった。このように現在,照葉樹林が覆っている地域では,縄文時代から古墳時代にかけて,イチイガシの果実と木材は重要な資源として活用されていた。 〇高宮 正之(熊本大学)  「日本産シダ植物メシダ科ノコギリシダ属Diplaziumの分類に関する四半世紀の成果」   岩槻図鑑「日本の野生植物シダ」(1992)から、海老原図鑑「日本産シダ植物標準図鑑?」(2017)の発刊まで25年が経過した。その間に様々な新事実が判明し、体系だけではなく種の取り扱いも大きく変貌した。本講演では、その期間私達が大きくかかわってきたDiplaziumを取り上げ、変遷を紹介する。岩槻図鑑には31種14雑種だが、海老原図鑑には31種25雑種が掲載されている。単純に見れば新雑種が増えただけのようだが、属名の変更、他の科や属に移ったもの、種が分けられたもの、種から雑種・逆に雑種から種に変更されたものなど、様々な変更が有った。